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Earth hacksセミナーレポート①_企業にとって「脱炭素」は課題でありチャンス

企業にとって「脱炭素」は課題でありチャンス

海外の取引先から「脱炭素」を求められたら?

2023年開催の「脱炭素(デカボ)を価値にするマーケティングセミナー」において、三井物産株式会社の生澤一哲氏、株式会社SIGNINGの清水佑介氏がトークセッションを行った。テーマは「生活者と脱炭素<脱炭素マーケティング概論>」。

いま世界中の国において、脱炭素化が求められている。そして企業にとって、脱炭素は「社会的責任」を超えて、ビジネスに直結する大きな「経営課題」ともなっている。「脱炭素をやった方がいい/やらなくていい」 という議論は、すでに終わっている。重要なのは「どうすれば自分たちのビジネスに、よりポジティブに組み込むことができるのか」というフェーズで議論しなくてはいけないという視点なのだ。もはや脱炭素は「取り組まないと大きなリスクに繋がっていくシリアスな問題」と言って良いだろう。三井物産株式会社でサステナビリティ事業を開発する生澤一哲氏も次のように語っている。

「自社に関わる取引先に脱炭素化を求める海外企業が増えています。例えばApple社は、2030年までに全てのサプライチェーンに対して再生可能エネルギーを使うよう要請しています。ある日突然、あなたの会社に英語の手紙が届き、脱炭素化を迫られるということも充分起こりうるわけです」(生澤)

企業にとっては、コスト増などのリスクも伴う脱炭素化。しかし一方で新たな商機になりうるとの指摘もある。その事実を象徴するかのように、欧米では数多くのクリーンテック企業が立ち上がっている。脱炭素化が未来を拓くビジネスチャンスであり、企業価値や社会的評価の向上にも大きく繋がっていくと捉えるビジネスパーソンが少なくないからだ。こうした流れは、いずれ日本のビジネスシーンにも波及していくだろう。

三井物産株式会社 生澤 一哲 氏
エネルギーソリューション本部 Sustanability Impact事業部新事業開発室 室長。
カーボンニュートラル実現に向けたサステナビリティ領域の新事業開発を行っている。

「ラク」と「トク」こそ脱炭素訴求のカギ

とはいえ脱炭素推進により発生する諸々のコストを企業サイドのみで負担していくのは難しい。少なくとも現状においては、商品やサービスを購入する生活者にも価格転化やサービスの変更という形で負担を請うことになるだろう。ここで重要となってくるのが、消費者との合意形成のあり方だ。

注目すべきデータがある。日本の生活者を対象とした調査において、大半の人が「脱炭素は良いものだ」と理解しつつも、なんらかのアクションを起こしている人は4%程度にとどまっているのだ。調査に取り組んだ株式会社SIGNINGの清水佑介氏は「海外と日本では、生活者が脱炭素に取り組むモチベーションのあり方が明らかに異なっている」と分析する。

「脱炭素に取り組む動機について調べたところ、NYやLAだと『責任感』、ストックホルムでは『やらないと時代遅れ』という回答が多かったんです。しかし日本では『自分のためになる』『楽になる』というメリットがないとアクションに繋がって行かない。我々は脱炭素の推進を生活者に伝える時、往々にしてお説教的になり、生活者を身構えさせてしまう。大事なのは伝え方なんですね」(清水)

株式会社SIGNING 清水 佑介 氏
執行役員/Creative Directorとして、ソーシャルアクションとビジネスを結びつけ、新しいビジネスのあり方、社会のあり方を考える。

ファクトに基づいた「欲求を喚起する」伝え方

すでに日本に暮らす人々の多くが、脱炭素の重要性を理解している。しかし大半の人がアクションを起こすには至っていない。いま必要とされているのは、彼らに第一歩を踏み出してもらうためのきっかけ作りなのだ。「消費者に上手く利益を提供すること」こそが、脱炭素社会の実現における重要なテーマとなっていると言って良い。

こうした背景を踏まえ、Earth hacksでは生活者が脱炭素に取り組みやすくするきっかけとして、商品やサービスのCO2削減率を表示する「デカボスコア」を開発した代表の関根澄人氏はデカボスコアの特徴を次のように語る。

「例えば具体的な製品ごとのCO2排出量の絶対量だけを提示されても、ほとんどの生活者は実感が湧かない。そこで我々は“デカボスコア”というマークを使って『これまで10キロだったCO2排出量が5キロになり、50%オフになった』と伝えることにしました。『この商品を選ぶとこんなに減りますよ』と言われると、ちょっとだけ嬉しい気持ちになりませんか?そこで生活者の欲求が動くわけです」(関根)

Earth hacks株式会社
代表 関根澄人
今回のトーキングセッションでモデレーターを担当した。

企業にとっては経営リスクに直結し、同時に新たなビジネスチャンスともなるかもしれない「脱炭素」。しかし日本の生活者のモチベーションをくすぐるためには、彼らのアクションを喚起するコミュニケーションについて考え直す必要がある。従来のお説教的な「語り」ではなく、商品に隠されたストーリー、企業として描くヴィジョン、そしてファクトに基づく工夫された伝え方こそが、生活者を動かすきっかけ作りに繋がっていくのだ。

『Earth hacksセミナーレポート②_脱炭素を願う「Z世代」は「一次情報」を重視する』へ続く