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Earth hacksセミナーレポート④_ヤフー、コアレックス信栄、UCCによる脱炭素マーケティング先行事例

ヤフー、コアレックス信栄、UCCによる脱炭素マーケティング先行事例

今回Earth hacksでは、異なる業界で存在感を発揮する三つの企業から担当者を招き、脱炭素をどのようにマーケティングにつなげているかについて詳しく話を聞いた。これから脱炭素に取り組んでいこうと考えている企業の方々にとっても、非常に示唆に満ちた内容となっている。是非ともご一読いただきたい。

2023年7月 に開催された「脱炭素(デカボ)を価値にするマーケティングセミナー」において、森島芳治さん(ヤフー株式会社)、小嶋千恵さん(コアレックス信栄株式会社)、中村知弘さん(UCCホールディングス株式会社)がプレゼンテーションを行った。テーマは「先行企業による脱炭素マーケティングケーススタディ」。

物流、再生紙、食品…各社の環境に対する取り組み

関根澄人(Earth hacks):まずは各社の環境に対する取り組みについて教えてください。

森島 芳治氏(ヤフー株式会社):ヤフーでは「CO2削減」「国産品、産直品、レンタル品」「廃棄ゼロ」という三つのテーマから環境対策を進めています。配送に関しては、まず商品を早急に必要としていないお客様には余裕を持って配達する「おトク指定便」、そして「OMO(Online Merges with Offline)」と呼ばれる店頭受け取りや「置き配」なども活用しています。次に「産直品」では、国産品の需要喚起と同時に中間で発生するCO2削減を狙っています。さらに「ECOチャレンジ」というサービスがあります。こちらは「けんさく」と「えんじん」というYahoo!JAPAN公式キャラクターを使って、環境に対処した商品を買っていただくことで、世界を綺麗にしていくというゲーミフィケーションを使った啓蒙活動になります。いつものお買い物をしていただいて、気がついたら環境貢献をしてるという仕組みを作っていきたいという思いでスタートしました。

ヤフー株式会社の森島 芳治 氏。ソリューション営業部の部長としてYahoo!ショッピングに携わっている。

小嶋 千恵 氏(コアレックス信栄株式会社):コアレックスは「地球にいいこと」をスローガンに、再生紙100%のトイレットペーパー、ティシューペーパーを製造販売している製紙メーカーです。それまで再生されず燃えるゴミとして処分されていた「難再生古紙」と呼ばれるプラスチックや金属がついたままの古紙を再生する処理技術を開発いたしました。他のメーカーと異なるのは、禁忌品に分類されてしまっている紙資源(アルミ加工された紙や感熱紙、防水加工された紙など)も再生できるというところです。

関根(Earth hacks):コアレックス信栄さんは、再生紙を使ったトイレットペーパー「スマートフラワー」で、デカボスコアを取得してます。


小嶋(コアレックス): はい。デカボスコアを通じて、自社でパルプ製のトイレットペーパーを生産すると仮定した場合と比べ、CO2相当量の排出が53%も抑えることができていると消費者の方々に知っていただく事ができました。よりわかりやすく、伝わりやすくなったことで、買い物するときの意識に変化をもたらす事もできた様に思います。これまでの皆さんは買い物をするときに「価格」「機能」などを検討されてきました。これからは「環境に配慮しているか」も考えて消費されるようになっていくのではないでしょうか。

創業当時から再生紙にこだわってきたコアレックス信栄株式会社の小嶋千恵氏。 東京営業所にて営業に携わっている。

関根(Earth hacks):UCCさんは「コーヒーの2050年問題」に取り組んでいるそうですね。

中村 知弘氏(UCCホールディングス株式会社):その通りです。実は、このまま2050年まで気候変動が続くとコーヒーの生産量が半分ぐらいになってしまうと言われています。コーヒーには「コーヒーベルト」と 呼ばれる栽培適地があります。しかし気候変動が進むと、この適地が移動することになります。しかし適地が動いたからといって、必ずしも新たに開拓できるとは限りません。ですからUCC では、2040年までに二酸化炭素を減らすカーボンニュートラルを実現し、積極的に自然を回復していこうと考えています。またコーヒーに関わる人の問題に関しては、2030年までにサスティナブルなコーヒー調達を実現すると規定いたしました。

さらに我々は外食事業もやってますので、使い捨ての資材も減らしていきます。また食べ物の未来を考えるべく「フードホーププロジェクト」をスタートしています。具体的には値引き販売をする活動なのですが、ネーミングをすることで消費者の共感やエンゲージメントを高めていくという施策です。Earth hacksさんとも取り組みを行っておりまして、その中でタンブラーを月に3回、年に36回、一つのカップを使っていただくと、使い捨てのカップと比べてカーボンを63%減らせるということがわかりました。この結果を大々的に発表させていただき、かつ「63%」という数字をお客様に意識していただくために、店舗にタンブラーを持ってきていただいたお客様には、63円分のポイントを付与するキャンペーンを行いました。「63%」という数字、環境に良いことをすると得であると消費者の皆さんに印象付ける取り組みになったように思います。

UCCホールディングス株式会社の中村知弘氏。 サステナビリティ推進室の室長を務める。

日本の生活者の意外な意識

モデレーターはEarth hacks代表取締役社長の関根澄人が担当した。

関根(Earth hacks):日本のお客様と向き合っていく中で、脱炭素に関わる変化があれば、教えてください。

森島(ヤフー):一般的には12月25日に食べるクリスマスケーキですが、ユーザーにアンケートを取ると時期を越えても全然OKだと答える方が多いです。一方で7割ぐらいの方が「時期を越えるのだから多少値引きして欲しい」と答えています。アンケートベースですが、おそらく「少しお得」という部分が重要なんだろうと思います。おそらく恵方巻でも同じ結果が出るはずです。

中村(UCC):海外の調査と比較すると、なんらかの脱炭素アクションを起こすことに対して「不便だ」「手間がかかる」「自分に何ができるのかわからない」とおっしゃる方が多いようです。まだまだ世界で何が起こってるのかについて強い興味関心はなくて「自分で何が出来るかよくわかんないな」と考えている様です。あるいは「そもそも”脱炭素”なんて手間がかかる事をみんなしてるの?」と横目で見ている感覚があるのかなとも感じています。

関根(Earth hacks):コアレックスさんとは、アウトレットモールのフードコートで紙コップを一緒に回収して、トイレットペーパーを作るというアクションを行いました。

小嶋(コアレックス):年代関係なく、いろんな方々が面白がってくれたのが非常に大きな特徴でしたね。ちょっとしたきっかけやストーリーが重要だと再確認いたしました。「何から出来ているかわからない再生紙より、自分がさっき飲んだ紙コップが変わってるんだって思うだけで面白い」というリアクションが印象に残っています。

コミュニケーションを通じて生活者の行動変容を

「タンブラー追加ポイント付与で4倍以上に購入率が増えた」と語るUCCの中村氏

関根(Earth hacks):実施したコミュニケーションやイベントは売り上げに結びつきましたか?

小嶋(コアレックス):コアレックスでは「スマートフラワー」という製品をECサイトで販売しているとお伝えしました。当社のオンラインショップと、Amazonの公式ショップで販売をしておりまして、当初の想定の2倍以上売り上げています。

中村(UCC):環境月間にタンブラーを持ち込んでいただいたお客様に63円分のポイント付与を行いました。普段は50円分ですから、わずか13円のアップではありますが、実は購入率が4倍以上になっています。元々タンブラーを持ち込んでくださる方が少ないからこその数字ですが、それでも値引きを活用しながら、アクションを起こしてくださった方が増えたことで、非常に勇気が出る内容でした。